Science Fiction and Fantasy Writers of Japan

last modified: 2010/03/27
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日本SF評論賞


●第5回日本SF評論賞

・優秀賞
「世界内戦」とわずかな希望――伊藤計劃『虐殺器官』へ向き合うために
岡和田晃
・選考委員特別賞
文字のないSF――イスフェークを探して
高槻真樹
大賞は該当作ありません。
贈賞式は、「2月5日(金)」に、フロラシオン青山にて行われます。

●第5回日本SF評論賞 最終候補作(順不同)


●趣意書

 「SF評論」と聞いて、あなたは何を思い浮かべるでしょう。そのイメージ の大半はおそらく、新聞雑誌の書評や文庫の解説によって、かたちづくられて きたのではないでしょうか。しかし世界がSFと化してしまった現在、きわめて クリエイティヴなSF的想像力を創作以外の形式で発揮するものが増大するよ うになったのも、疑いえません。SFが小説から映像、音楽まで多くの表現形式 を獲得してきたように、SF評論もまた、創作以外の多くの領域をカバーするも うひとつの表現形式として、評価されるべき時代が到来しました。伝統的な文 芸評論の枠には収まらなくとも、独自の作家論や作品論、伝記、ノンフィクショ ン、超科学研究、はたまた映画やマンガやアニメ、現代芸術、さらにはそこに 惹きつけられる感性自体を中心とした文化研究に至るまで、SF的想像力あふ れる書き手は、今日決して少なくありません。そこから新世紀を担う才能を、 日本SF作家クラブは積極的に発見し発掘していきたいと考えています。

●第6回日本SF評論賞募集のお知らせ

21世紀のSF的想像力を見通す新たな航法士を求めます!

【選考委員】

荒巻義雄(委員長)、小谷真理、新城カズマ、瀬名秀明、SFマガジン編集長

●応募要項

〈ジャンル〉
メディアを問わない広義のSF作品および周辺ジャンル(ファンタジイ、ホラーを含む)を対象とする評論。
〈資格〉
プロ、アマを問わない。ただし未発表作品に限ります。
〈賞〉
トロフィー。
受賞作はSFマガジンに掲載、規定の原稿料を支払います。
〈原稿規定〉
400字詰原稿用紙50枚以上100枚以下(ワープロ原稿は1枚40字×40行、縦書きで印字の上、400字詰原稿用紙換算枚数を明記)。 原稿の表紙に、タイトル・氏名(ペンネームの場合は本名も)・年齢・住所・電話番号・職業・略歴を明記してください。 応募原稿は返却しません。 必ず手元にコピーを残してください。
〈締切〉
2010年8月31日(当日消印有効)
〈発表〉
2010年12月上旬予定
〈応募先〉
〒101-0046 東京都千代田区神田多町2-2 株式会社早川書房「日本SF評論賞」係
主催:日本SF作家クラブ 後援:株式会社早川書房

●日本・SF・評論――その歴史とヴィジョン

巽孝之

 一九五四年、映画『ゴジラ』が産声をあげ、日本初のSF商業誌<星雲>が創 刊号のみを刊行して潰えた年から、かれこれ半世紀が経った。
 以後の現代日本SFの歩みは、すでに常識だろう。一九五七年に日本初のSF同 人誌<宇宙塵>が創刊、一九五九年暮れに日本初のSF月刊誌<SFマガジン>が 創刊、そして一九六三年に日本SF第一世代を中心とする日本SF作家クラブが結 成されて、今日わたしたちが日本SFとしてイメージするジャンルの基盤が構築 される。
 ヒロシマ原爆投下による終戦から六〇年、そして現代日本SFが歩き始めてか らきっかり五〇年。この歳月は、人類が米ソ冷戦という巨大な二項対立の渦中 において、アポロ計画に象徴される宇宙開発計画の夢とともに、核戦争による 全地球の滅亡可能性という危機的な悪夢をくぐり抜けた期間であり、ヴェトナ ム戦争からオイルショックへ至る時代、我が国ではまさしく激動の六〇年代高 度成長期の時代に「未来」という名の掛け金がきわめて重要な意義を持ちなが らも徐々に失効していく期間であり、そして冷戦解消という分岐点をはさみ新 世紀を迎えるや否や、巨大な二項対立が封じ込めてきた無数の文化的対立群が、 それ自体最もSF的に噴出するまでの期間であった。
 したがって、そうした人類史上未曾有の相次ぐ危機を前に、SFというジャン ルが外宇宙から内宇宙へ、性差宇宙へ、そして電脳宇宙へおよぶ想像力を元手 にきわめて鋭敏かつ柔軟なヴィジョンを打ち出し、さまざまな傑作を紡ぎ出し てきたことは、すでに疑うべくもない。そしてそれは、当初こそ新興勢力であ り絵空事扱いされてきたSFが、いまや良かれ悪しかれ現在世界のそこここへ 「浸透と拡散」を遂げ、ジャンル的にも「変質と解体」を余儀なくされた半世 紀に相当する。現代文学の最先端を見回す限り、SF的想像力と無縁のものを見 出すほうが難しくなっている実状は、この半世紀にいかにSFジャンルが定着し たか、現実と不可分のものとなったかを示すとともに、では世界全体がSF化し てしまったらジャンルSFはいかにその独自性を発揮すべきか、という新たな問 題を突きつけているだろう。
 そんな時代に、SF評論はなぜ必要だったか。編著『日本SF論争史』(勁草書 房、二〇〇〇年)でも指摘したように、現代文明の危機とSFジャンルそのもの の可能性をパラレルで捉えた初期の日本SF作家たちは、当初は自らのSF宣言 というかたちで、のちにSF定義をめぐる百家争鳴というかたちで、やがては 日本SF批判というかたちで、SFのヴィジョンを形成していった。このころ、 SF小説とSF評論は、実践と理論の関係を成すものとして不可欠だった。
 たとえば、安部公房の「SF、この怪物的なるもの」にせよ、小松左京の「拝 啓イワン・エフレーモフ様」にせよ、作家宣言自体が高度なSF評論たりえた稀 有の瞬間であったろう。以後、日本のSF評論において頻発する定義論争におい ては、まず石川喬司がこのジャンルに「日常性の衝撃」を期待するも、<宇宙 塵>編集長・柴野拓美はSFを「人間理性の産物が人間理性を離れて自走する ことを意識した文学」、<SFマガジン>初代編集長・福島正実は「イマジネー ションの文学の今日的な相」と好対照をなすSF観を提起し、眉村卓は「イン サイダー文学論」を、さらに山野浩一は思索小説の立場よりあくまで「SFを 原点とした主体的論理体系」を重視した。
 一九七〇年代には荒巻義雄がハインライン再評価の立場よりこれをカントに 根ざす「<術>の小説」と再定義し、大宮信光は人類史的視点より「『SF的意 識』論」を展開、川又千秋はニューウェーヴとポップカルチュアを共振させる 「夢の言葉、言葉の夢」を求め、筒井康隆はポスト思索小説の観点から世界的 なメタフィクション系前衛文学の動きと共振する「超虚構小説理論」を完成す る。やがて一九八〇年代に入るとマルクス葬送派・笠井潔がSFを「支配的修 辞として科学を使う文学」と見て抜本的な再検討を加え、一九九〇年代にはサ イボーグ・フェミニスト小谷真理がサイバーパンク以後の性差の政治学の視点 から「女性状無意識」の理論を深化させている。このように大急ぎで図式化し てみただけでも、日本SFには評論でしかなしえなかった驚くほど多様なヴィ ジョンがあふれていたのがわかるだろう。
 とりわけ小松左京『日本沈没』(一九七三年)のベストセラーからジョージ・ ルーカス監督『スター・ウォーズ』(一九七七年)のメガヒットに至る歩みが 生み出した七〇年代中葉から八〇年代中葉にかけての一大SFブームは、便乗企 画のみならず、それまで周辺的だったSF評論そのものの提供するヴィジョンに も場所を確保するようになる。げんに山野浩一を編集長とするニューウェーヴ 専門誌<季刊NW-SF>(一九七〇年創刊)はいうまでもなく、曽根忠穂を編集 長とする第二の月刊商業誌<奇想天外>(盛光社、一九七四年創刊)、菅原善 雄を編集長とする第三の月刊商業誌<SFアドベンチャー>(徳間書店、一九 七九年創刊)などのページを少なからぬSF評論が飾った。八〇年を迎えて牧真 司が開始した年次大会シリーズ<SFセミナー>(東京)もその流れに拍車を かけ、志賀隆生を編集長とするSF評論専門の季刊誌<SFの本>(新時代社、 一九八二年創刊)までが登場した。
 それから四半世紀。
 八〇年代前半にはひところ半ダースを数えたSF商業誌は再び<SFマガジン> 一誌となり、一見寂しくなったかのように映るが、にもかかわらず、SFジャン ルから出発した評論的言説そのものは、インターネット以降、自覚的にせよ無 自覚的にせよ、むしろ隆盛をきわめているように思われる。かつてSF創作とSF 評論が実践と理論の両輪として相互作用していた時代は終わり、今日ではむし ろ、高度にSF評論を自覚した創作も生み出されるいっぽう、評論的言説そのも のが限りなくSF創作に近づいている場合も少なくない。アメリカではヒューゴー 賞ノンフィクション部門をはじめ、SFRA(SF研究協会)が長年にわたるSF評論 /研究功労賞として設立したピルグリム賞、年間最優秀論文を選定して表彰す るパイオニア賞、年間最優秀書評を顕彰するメアリ・ケイ・ブレイ賞など、SF 評論そのものの達成を評価する制度がこのところ増大の一途を辿っているが、 我が国の等価物としては、星雲賞のノンフィクション部門、昨年終了したSFファ ンジン大賞評論部門があるのみで、恒常的な登竜門はいまも存在していないの が実状だ。
 ところが、ここ十年ほどの新世紀転換期にいくつか重要な変化が起こってい る。そのひとつには、むろんSFの冬をめぐる論争が数え上げられるが、それは これまでのSF史全般においても定期的に反復されてきたものなので、いまは多 くを述べない。むしろ肝心なのは、我が国のマンガやアニメをめぐる興味が英 語圏を中心に沸騰し、それをきっかけに北米の日本学者たちの日本語能力が飛 躍的に向上して、作品の翻訳はもちろん、日本SFに関する評論を中心とした雑 誌特集やアンソロジーがぞくぞくと企画されるようになったことだ。必ずしも <SFスタディーズ>のように学術的なものばかりではなく、目下ミネソタ大学 出版局を根城に日本を中心としたSFなどポップカルチュア全般の評論誌<メカ デミア>が刊行を控えて鋭意準備中と聞く。
 かつて中島梓はロバート・スコールズ&エリック・ラブキンの共著『SF―そ の歴史とヴィジョン』(一九七七年)のの邦訳版の書評(<SFマガジン>一九 八一年四月号)で、同書の中に日本SFへの言及がひとつもないことに深刻な焦 りを表明した。それから四半世紀、いまや世界SF大会で日本SFやマンガ、アニ メをめぐるパネルが組まれない年はなく、北米のSF評論誌では日本人作家や評 論家への言及がひっきりなしにくりかえされている。論者の大半は、英訳を待 つことなく、安部公房から筒井康隆、ひいては斎藤環に至る言説を原著で読み、 引用するようになっている。かつて「日本SF評論」といったら、日本において SF小説の原点と指向を吟味する評論だったが、いまの「日本SF評論」は日本の SFを言語で読みこなす英語圏知識人たちがそのマルチメディア的魅力を再吟味 する評論としての可能性をも、考慮しなくてはならない。日本語で書く限り、 孤独であり続ける時代は終わった。日本SFがグローバルな視点で評価される時 代に入った現在、その新しい基準にふさわしい評論が、いまこそ切実に求めら れている。

●日本SF評論賞受賞作リスト

第1回 受賞作 『鳥姫伝』評論−断絶に架かる一本の橋−
横道仁志
選考委員特別賞 ナガサキ生まれのミュータント
−ペリー・ローダンシリーズにおける日本語固有名詞に関する論考
および 命名者は長崎におけるオランダ人捕虜被爆者であったとする仮説−
鼎元亨
第2回 優秀賞(順不同) グレッグ・イーガンとスパイラルダンスを
 「適切な愛」「祈りの海」「しあわせの理由」に読む境界解体の快楽
海老原豊
国民の創世−−<第三次世界大戦>後における<宇宙の戦士>の再読
磯部剛喜
第3回 受賞作 光瀬龍『百億の昼と千億の夜』小論 旧ハヤカワ文庫版「あとがきにかえて」の謎
宮野由梨香
選考委員特別賞 消失点、暗黒の塔――『暗黒の塔』V部、VI部、VII部を検討する
藤田直哉
第4回 優秀賞 アシモフの二つの顔
石和義之
第5回 優秀賞 「世界内戦」とわずかな希望――伊藤計劃『虐殺器官』へ向き合うために
岡和田晃
選考委員特別賞 文字のないSF――イスフェークを探して
高槻真樹

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